【千と千尋の神隠し】道後温泉はモデル？聖地とみどころを徹底解説！

『千と千尋の神隠し』とは？

『千と千尋の神隠し』は、2001年7月20日に公開された宮崎駿監督のアニメ映画。興行収入約316億8,000万円を記録し、2020年に『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』に抜かれるまで19年間も歴代興行収入1位の座に君臨しました。

また米アカデミー賞の長編アニメ映画賞も受賞しています。

主な舞台は不思議な世界の湯屋

『千と千尋の神隠し』は10歳の千尋が両親とともに引っ越し先に向かう途中で謎のトンネルを通り抜け、不思議な世界に入り込むという物語。両親が豚に変えられてしまったため、千尋は魔女の湯婆婆が経営する油屋という名の湯屋で働くように。

千尋が働く油屋と、油屋の周辺に広がる街が物語の主な舞台となります。

道後温泉は『千と千尋の神隠し』のモデルになった？

『千と千尋の神隠し』のモデルだといわれるスポットは噂レベルのところも多いのが実情ですが、道後温泉本館は宮崎監督がモチーフにしたとはっきり明言している場所のひとつです。

スタジオジブリは1998年7月に社員旅行で道後温泉を訪れています。そして美術監督の武重洋二氏は『ジブリの社員旅行で道後温泉を訪れ、油屋の外装を描く際の参考にした』と明言。また宮崎駿監督も参考にしたことを認め、ジブリ日誌で公開されています。

“湯屋『油屋』のモデルはどこか、という質問を映画の公開直後からたくさんいただきました。この件について、宮崎監督に直接質問したことがありますが、監督の答えは、『色々な温泉が入っていて特定のモデルはないけれど、道後温泉は確かに入っている』とのことでした”（ジブリ日誌より抜粋）

『千と千尋の神隠し』のモデルとされる多くのスポットの中でも、江戸東京たてもの園と道後温泉は、公式に認められている貴重なスポットなのです。

道後温泉は日本三古泉のひとつ

『千と千尋の神隠し』の聖地の一つといえる愛媛県松山市にある道後温泉は、日本三古泉のひとつ。そしてそのなかでも日本最古といわれている温泉です。 道後温泉の歴史はなんと3,000年ともいわれるほど。大国主命（おおくにぬしのみこと）が少彦名命（すくなひこなのみこと）の病を治したという伝説や聖徳太子が訪れた逸話など、日本最古の温泉にふさわしい言い伝えが数多く残っています。

道後温泉といえば小説『坊っちゃん』でもおなじみですが、『日本書紀』や『源氏物語』にも登場しているほどの古泉なのです。

道後温泉の泉質は、アルカリ性単純泉。なめらかで刺激が少なく、湯治や美容に適しているといわれます。

源泉は18本あり、温度は20度から55度とバラバラです。道後温泉ではそんな源泉のお湯を分湯場という施設でブレンドして42度程度の適温に調整しています。加温や加水をしないことで全国的にも珍しい無加温・無加水の源泉かけ流しを実現しているのです。

『千と千尋の神隠し』のモデルになった道後温泉本館

道後温泉本館は『千と千尋の神隠し』の油屋の描写に大きな影響を与えたスポット。どんな建物で、どのあたりが映画の参考にされたのでしょうか。

道後温泉本館の4つの建物

道後温泉本館は現役の銭湯でありながら国の重要文化財に指定されている建物。また経済産業省の近代化産業遺産にも認定されています。正面から見るとひとつの建物に見えますが、周囲をぐるっと回ってみるといくつかの建物がつながっていることがわかります。

実際には北にある神の湯本館棟と、東にある又新殿・霊の湯棟、南にある南棟、そして西にある玄関棟がつながった複雑な構成。この4棟が国の重要文化財に指定されています。

道後温泉本館には、神の湯と霊の湯（たまのゆ）という2種類の浴場があります。それぞれの男女の浴場があるのはすべて1階。神の湯は玄関棟から廊下を歩いて行けますが、霊の湯は玄関棟から直接は行けず、いちど2階に上がってから男女別々の階段で出入りすることになります。

複雑なルートになっているのは、増築していった4棟を通路でつないでいるため。動線がとても複雑で迷路のようになっているところも油屋を彷彿とさせます。

神の湯本館棟

神の湯本館棟は明治27年の建物です。3階建てで屋根は入母屋。道後温泉本館のシンボルといえる塔屋がついているのはこの建物です。1階が浴場、2階と3階が休憩室で、夏目漱石が使用した坊っちゃんの間はこの棟にあります。

又新殿・霊の湯棟 

又新殿・霊の湯棟は明治32年の建物です。3階建てで屋根は銅板葺と檜皮葺。日本で唯一の皇室専用浴室がある建物で、中には玉座の間など豪華絢爛な空間が広がっています。

南棟

南棟は大正13年の建物です。東の三階建てと西の二階建てを二階東西廊下が繋いでいて、屋根は桟瓦と銅板葺。養生湯として建設され、修理前まで神の湯女子浴室はここにありました。

玄関棟

現在の玄関棟は大正13年に神の湯、霊の湯、養生湯の各浴室を連絡する出札口として建設された棟。昭和10年に神の湯を移動させてから玄関棟としての役割をもつようになりました。

玄関正面の屋根に注目

映画に登場する油屋の描写でもとくに道後温泉らしいといわれているのが、玄関の屋根。道後温泉の玄関正面の中央部にある屋根は丸みを帯びた独特な形で、映画に登場する屋根とよく似ています。他にも似ている部分はたくさんあるといわれているので、よく探してみてください。

道後温泉本館は工事でどう変わった？

道後温泉本館は2019年から2024年にかけて、一部で営業を続けながら大規模な保存修理工事が進められてきました。工事は強度を高める補強がメインで、工事によって『千と千尋の神隠し』で見られたような趣のある外観に変化は特にありません。

工事は強度を高める補強

今回の保存修理工事は、耐震性を上げるのが大きな目的。そのため建物の構造にも手が入っています。ただし道後温泉本館の歴史的・文化的価値をそのまま残していくのが大きな方針なので、見た目がなるべく変わらないかたちで工事が行われたそうです。

変化が見られるのは、たとえば神の湯の男性浴室。建物の強度を高めるために中の補強を行った結果、壁が少しだけ前に出ているそうですが、雰囲気はまったく同じ。変化に気づく人はほとんどいないはずです。

アメニティは充実

一方で脱衣室の内装は大きく変わり、ゆったりと使える洗面台や快適な冷暖房器具が設置されました。また化粧水やヘアオイル、綿棒、シャンプーやボディーソープが充実するなど、アメニティの魅力がアップしています。油屋をイメージさせる趣ある外観や空間はそのままに、快適度が上がったのはうれしいですね。

増改築して完成した建物は全方向から見たい！

何度も増築や移築、改築を重ねて今の姿となった道後温泉本館には、明治、大正、昭和の建築技法が入り混じっています。一般的には玄関棟を中心に据えた構図の画像がよく見られますが、横や後ろからだとまったく違う建物のように見えるのがおもしろいところ。

そんな不思議な外観も『千と千尋の神隠し』の油屋のイメージにぴったりだったのかもしれません。道後温泉本館を訪れたらぜひ周囲を一周回って、油屋のモデルになっているかもしれない場所を探してみてください。

道後温泉本館の内部を徹底案内！

道後温泉本館は温泉旅館のように見えますが宿泊施設ではなく銭湯です。旅行に行った場合は外湯として日帰り入浴することになります。

前述のように道後温泉本館にある浴場は、神の湯と霊の湯。この2つのお風呂といくつかの休憩室があり、それぞれを組み合わせたコースから選んで入ります。はじめて訪れた人はどのコースがいいか迷うことになりがちなので、人気のコースをご紹介します。

コースは入浴が6種類と見学が1種類

道後温泉本館に到着したら、まずは正面玄関の右にある売り場でチケットを購入しましょう。入り口で番頭さんにチケットを確認してもらい、それぞれのコースへ進みます。

コースは入浴できるものが6種類と見学のみが1種類。お手軽な入浴コースから順に紹介していきましょう。

神の湯階下

銭湯感覚で気軽に体験できるコース

神の湯階下は、「神の湯」に入浴するだけのコースです。休憩施設などは利用できない代わりに料金は大人700円と安く、銭湯感覚で気軽に入浴を楽しめます。

もっとも歴史ある建物の神の湯本館棟1階にある神の湯は、毎日通う地元の人も多いという広々とした浴室。男湯には2つの浴室と1つの脱衣所、女湯には1つの浴室と2つの脱衣所があります。

浴室は石造りで、中央の湯釜が特徴。砥部焼の陶板壁画が美しく、男湯には道後温泉を発見したといわれている白鷺、女湯には道後温泉とゆかりの深い大国主命と少彦名命が描かれています。

坊ちゃんが泳いだ浴場

道後温泉本館は小説『坊っちゃん』にも登場しますが、そのなかで坊ちゃんが「温泉だけは立派なものだ」と感心し、あまりの気持ちよさに泳いでしまったのはこの神の湯なんです。

小説の中では「湯の中で泳ぐべからず」と注意書きをされており、実際の神の湯にもそれにちなんだ「坊っちゃん泳ぐべからず」の木札があります。

ちなみにこの木札は男湯にしかありませんでしたが、2024年に完了した大規模な修理後は女湯にも設置されました。

神の湯二階席

神の湯に趣のある休憩所をプラスしたコース

神の湯二階席は道後温泉本館の王道といわれる人気のコースです。こちらは神の湯への入浴と、神の湯二階席での休憩もできるのが特徴。貸し浴衣を着てゆっくり過ごすことができます。

大広間は55畳もあって最大70名ほどが利用できる開放感いっぱいの空間。またお茶とせんべいの接待も受けられます。6月から9月はすだれが掛けられて、情緒あふれる涼空間を楽しめるのも魅力。縁側も気持ちいいですよ。

霊の湯二階席コース

豪華な浴場と休憩室も追加されるコース

霊の湯二階席は、神の湯への入浴に加えて、霊の湯への入浴と霊の湯専用の休憩室の利用ができるコース。後述する又新殿の見学も無料となります。貸浴衣があり、お茶とせんべいの接待が受けられるのは、神の湯二階席、コースと同じです。

霊の湯の休憩室は大正時代に建てられた南棟の2階にある25畳ほどの休憩室。神の湯二階席に比べてゆったりと静かに過ごすことができます。

霊の湯の男湯は、もともと皇室の随伴者用だったといわれる浴室。大理石など高級石材を使用した豪華な造りが特徴です。一方、霊の湯の女湯は中央の湯釜の上から大国主命と少彦名命が見守る、こちらも豪華な浴室。広々とした浴槽は80cmほどと少し深めになっていて、気持ちよく肩までつかれます。

霊の湯三階個室

上等と呼ばれた部屋で優雅に過ごせるコース

霊の湯三階個室は、霊の湯二階席コースの休憩室が床の間つきの個室になるクラス。かつては「上等」と呼ばれ、小説『坊っちゃん』にも「俺はいつでも上等へ入った」と紹介されています。

霊の湯の三階個室はいくつかの部屋がありますが、その一番奥にあるのが「坊ちゃんの間」です。ここは明治28年10月に夏目漱石が正岡子規とともに利用した部屋で、部屋には漱石ゆかりの資料も置かれています。

霊の湯三階貸切室 しらさぎの間

広々とした貸切部屋で休憩できるコース

しらさぎの間は、2024年の全館営業再開にあわせて、これまで開放していなかった従業員用の部屋を貸切室としたもの。部屋から道後温泉本館のシンボルである振鷺閣の白鷺を眺められるのが特徴です。広さは19畳で定員は18人となっているので、団体で貸し切りたいときには最適なコースですよ。

霊の湯三階貸切室 飛翔の間

10人までの団体におすすめの貸切りコース

飛翔の間も2024年の全館営業再開にあわせて新しく開放された部屋。部屋からは振鷺閣の上の白鷺が大空に飛び立つように見えることから飛翔の間と名付けられました。広さは12畳半で定員は10人です。

しらさぎの間と飛翔の間では新作の茶菓子が提供されるのもポイント。愛媛県産かんきつの紅まどんなのジャムをクッキー生地で包んだ「道後 湯上がり乃しらさぎ」という焼き菓子がいただけます。

又新殿

皇室専用の歴史ある浴室を見学

又新殿・霊の湯棟は皇室専用の御湯殿として明治32年に建設された棟。そのうちの又新殿は、玉座の間、御居間、御湯殿など優雅な空間が広がる日本唯一の皇室専用浴室です。木造3階建ての建物は木材に無節の上質な栂（つが）材を使用し、室内は金箔や銀箔をふんだんに使うなど豪華絢爛。

そんな又神殿をガイドつきで見学できるのが又神殿コースです。また霊の湯二階席以上のコースなら又神殿を自由に見学できます。ただし皇室専用の御湯殿に入浴はできないので注意してください。

御成門

御成門は皇室専用浴室の玄関。皇室の御訪問時しか開きません。屋根は軒唐破風、千鳥破風、起り破風でできた複雑な造りです。

玉座の間

玉座の間は天皇のみが使用できる部屋。金箔地に鳳凰、菊、桐の絵が描かれています。床は春日杉、床脇は神代杉の一枚板が使用されるなど目立たないところも非常に豪華です。

御湯殿

皇室専用浴室である御湯殿の湯釜はただの石材ではなく豪華な庵治石。ここにも大国主命と少彦名命の像が彫られています。

＼道後温泉周辺のホテルをチェック／

『千と千尋の神隠し』のモデルと噂される場所

この油屋や街があるのは現実とは違う不思議な世界ですが、いくつかの場所がモデルになっているといわれています。

実際に宮崎監督は、これまで訪れた複数の旅館を組み合わせながら油屋を創造したと発言していますよ。一部の建物は実際にモデルになったとスタジオジブリから公式に認められていますが、そのほかにも噂となったスポットはたくさんあります。

九份・阿妹茶酒館（台湾）

夜の油屋や街のモデルと噂される人気観光スポット

阿妹茶酒館は、台北近くの九份を代表する老舗。ここは油屋のモデルのひとつと噂されています。昔の金鉱工場をリノベーションした建物。豎崎路の階段道沿いにある建物は瓦屋根に連なる赤提灯がロマンチックです。

然別湖の湖底線路（北海道）

水没した線路のイメージの元になったかもしれないスポット

然別湖の湖底線路は、水没した線路を列車が走っていくファンタジックなシーンにそっくりな場所。線路は湖底に向かって延々と続いていくように見えますが、実は冬に湖が凍結する前に遊覧船を陸に引き上げるためのレールです。

愛媛県の青石海岸にも同じように海に向かって引上げ用のレールが伸びている場所があり、そちらも『千と千尋の神隠し』のモデルではないかといわれています。

銀山温泉（山形県）

油屋のモデルのひとつになったと噂される人気の温泉街

銀山温泉はNHKの朝の連続テレビ小説『おしん』で有名になった趣のある温泉街。3階・4階建ての豪奢な旅館の様子が油屋によく似ていて、モデルのひとつになったといわれています。

また『鬼滅の刃』の『刀鍛冶の里編』に登場する大正時代の建物や山の様子が銀山温泉の温泉街によく似ているという噂も。他にも銀山温泉は近年多くのアニメの聖地になっています。

積善館（群馬県）

赤い橋と油屋、トンネルのモデルになったと噂される旅館

四万温泉の積善館は『千と千尋の神隠し』のモデルだと噂される温泉旅館のなかでもかなり似ていると評判の宿です。とくに本館前に赤い橋が伸びている様子は物語に何度も登場する光景にそっくり。また橋の右側の浴室棟の上の木造建築は油屋にある女中部屋に似ているといわれています。

さらに積善館の渡り廊下は一部がトンネルになっているのが特徴。こちらは物語冒頭のトンネルに雰囲気がそっくりだと話題になりました。

モデルだと噂される場所がたくさんあるため四万温泉では『千と千尋の神隠し』の世界がかなり意識されています。例えば、四万温泉に通じるアクセス国道には、タイヤとの摩擦で主題歌の『いつも何度でも』の旋律が流れるメロディーラインも設置されていますよ。

江戸東京たてもの園（東京都）

東京都小金井市の江戸東京たてもの園は多くの建物が参考にされたスポットで、スタジオジブリが「大いに参考にした場所」として公式に発表しています。

武居三省堂

武居三省堂は、釜爺のボイラー室のモデルになった建物だといわれています。実際は昭和初期に建てられた文具店で、壁にぎっしりと並んでいる桐箱の引き出しの数は350。薬ではなく筆などの商品が種類別に入っていました。

宮崎監督は江戸東京たてもの園に移築されたこの文具店をとても気に入り、たびたび訪れて参考にしたといわれています。

高橋是清邸

傷ついたハクが千尋のいる窓へ飛び込んでくるシーン。その部屋の窓のモデルとなったのが、高橋是清邸です。よく見ると特徴的な窓のデザインが映画のシーンと同じように見えますね。

ちなみにこの家は2.26事件のクーデターで高橋是清が命を落とした場所でもあります。

子宝湯

江戸東京たてもの園の下町中通りの一番奥にある銭湯の子宝湯は、油屋のモデルになった建物のひとつ。スタジオジブリの公式サイトでも、この建物が大いにインスピレーションを与えたと明記されています。

ただし建物の中は昭和レトロな銭湯の雰囲気で、このあたりは映画とはかなり異なります。

金具屋（長野県）

油屋のモデルのひとつと噂される温泉旅館

渋温泉にある歴史の宿 金具屋は、もともとは松代藩出入の鍛冶屋だった歴史ある宿。災害からの復旧中に温泉が湧き出たため、1758年に宿屋をはじめたそうです。

公式に認められてはいませんが、外見がよく似ていることと宮崎駿監督の別荘の近くにあることなどから、この旅館も油屋のモデルになったといわれています。

清州城（愛知県）

赤い橋のモデルと噂される城

清州城は織田信長が10年ほど住んでいたといわれる城。ここも五条川に架かる朱塗りの大手橋とその向こうに建物がそびえている雰囲気、立派な門などが油屋に似ていると噂されています。

道後温泉本館で『千と千尋の神隠し』体験をしよう！

『千と千尋の神隠し』のモデルになったと噂される場所はたくさんあります。そのなかでも公式に認められている道後温泉本館は貴重な聖地。実際に訪れれば、油屋の雰囲気を堪能できますよ。

あの神秘的な世界を体験してみたい人は、道後温泉を訪れてみてはいかがでしょうか。

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